作品について
ヌマンシアはソリアから北東に7Kmほど行ったところにある廃墟だ。荒涼とした小高い丘に建物の土台だけがうねるように続く。住居跡を歩いていると、ローマ軍に包囲されたヌマンシア人の雄叫び、絶望、悲鳴が聞こえてきそうだ。
ローマはヌマンシアを紀元前143年から134年にかけて、何度も征服しようとしたが、成功しなかった。カルタゴを壊滅(紀元前146年)させたスキピオ将軍が紀元前134年、8ヶ月にわたる包囲網を引き、無血開城を迫った。しかしヌマンシア人たちは、この芝居にあるとおり、飢えに苛まれ、自分たちの町を焼き払い、自決して無人の町を明け渡した。
セルバンテスはこの作品をマドリードの演劇界で活躍し始めた30歳代に書いている。若書きゆえに文体はこなれておらず、気負いが目立ち、正直言って翻訳するのに手こずった。しかし、「ドン・キホーテ」48章において、セルバンテスは模範とすべき芝居の一つにこの「ヌマンシア」をあげている。これほど長くて固いセリフを、当時の観客が面白がって観たとは到底思えないが、過酷な運命により、死を選ぶしかない究極の人間存在をテーマにした悲劇としてみると、なかなか面白い。
1937年、フランコ軍に包囲されたマドリードでこの作品は上演された。「フランコへの服従か、それとも自由か」という政治的なメッセージを舞台から送ったのだろうが、劇団クセックACTの台本作者としては、「愛する人のために君は死ねるか?」などという単純な「愛国心」を鼓舞するつもりはさらさらない。「愛する人と死ななければならない」悲劇を、どうして人間はいまだに繰り返すのか、地球的規模で危機に瀕している我々の悲劇として考えて欲しいと思う。
なお、この作品は「アルマグロ国際古典演劇祭」からの招待作品である。劇団としては三度目の招待だ。
翻訳・脚色 田尻陽一
