何とかなるさ、舞台へ辿り着く道



そもそも飛行機の手配から想定外だった。フィンエアーが安いので予約をすると、6席足らない。マドリード着20:25というフィンエアーに近いフライトを探すと、19:40着というルフトハンザがあった。これならマドリードの飛行場で待てる。オルメド行のバスの手配もできた。7月19日、まずはルフトハンザの一行を迎えようとマドリードの飛行場に行って驚いた。到着ターミナルが違うのだ。シャトルバスで15分の距離。しかし、到着時間の差が45分あるから大丈夫。と思いきや、ルフトハンザ延着1時間ときた。先にフィンエアーを迎えにいくべきか、と、今度はフィンエアーが延着30分ときた。まずはルフトハンザを迎え、急いで次のターミナルへ。出迎えロビーに着くと、丁度フィンエアーの一行が下りてきた。セーフ、最後はうまくいく、これがスペインだ。

一路バスはオルメドへ。団員はバスに乗ると爆睡状態。マドリードから西グワダラマ峠のトンネル(標高1,500m、距離3㎞)を抜けると豪雨も豪雨。犬と猫が天から降りかかってくるとはこのことか。バスのワイパーを全速力にしてもプールの中を泳いでいる気分。道路上の雨の流れにバスが乗ると横に滑る。さすがに運転手も速度を80kmに落とした。オルメドまであと30分。演劇祭の事務局から、今夜の公演は中止という知らせが入った。それでもみんなは爆睡中。

00:00、オルメド着。雨は止んでいたが、気温は20度。マドリードは40度だったのに、これじゃあ仕込みのときに風邪をひくかもしれない。部屋の鍵を渡し、ホテルが夕食を用意してくれていたので、00:30に食堂に集合。翌日からのスケジュールを確認。公演の成功を祈念して乾杯。とりあえず就寝。


7月20日、神宮寺さんとボクは事務局に行って、ベッド、ロープ、杖など、演劇祭事務局に依頼していた小道具を点検。すべて満点。マドリードで印刷してもらったパンフレットも届いていた。最高の出来。スタッフは現地の機材を点検。前の日は雨が降ったので今晩の舞台の仕込みがまだできなかった。キューバの劇団のため、朝から必死で現地スタッフが動いている。我々は自分たちの公演に必要な舞台機構を点検。舞台奥の階段も作ってくれていた。袖幕無しで公演できそうだ。ブランコをぶら下げるバトンも手紙を巻く揺すり籠の装置もバッチリ。舞台監督の鈴木寛史さんは大満足。まずは安心と、路上のカフェテリアでビールを一杯。散歩に出てきた役者たちも交じって、公演の成功を祈念してまたもや乾杯。

20:30から前の劇団が『町人貴族』。仕込み不足か、照明がうまく当たらない。演技も演出もたいしたことはない。この劇団が明日はアルマグロに行くときいて、ムカッと来た。出演料が安いんだろうな、航空運賃は国が出してくれたんだろうな。舞台水準より金か、そう思うことで気を鎮めた。ボクの横で見ていたおばさんが声をかけてくれた。「あなたたち、明日公演ね。この前の『フエンテオベフーナ』も『ラ・セレスティーナ』も見たわ。明日も来るわよ。あなたたちの芝居、すごくスペクタクルでよく分かる。明日、楽しみにしてるわ。」こんな言葉をかけれると、芝居をやっててよかったと思う。さっきの怒りは完全に鎮まった。


00:00に終演。小1時間ほどで前の劇団のバラシが終わり、いよいよ我々の仕込み。吉戸俊祐さんの照明プランに基づいてライトを設定していく。現地スタッフも指示に従ってさっさと動く。無駄な動きがない。よほど設計図がしっかりしていたのだろう。太陽が出る7時までにシューティング(場当たり)をしていかないといけない。音響は真夜中だから使えない。しかし、寒い。ボクはすることもないので、一人でホテルに帰った。スタッフとキャストの皆さん、お休みなさい。もちろんその前にホテルのバルでワインを2杯。

7月21日、公演当日。晴れ。午後4時から照明なしで通し稽古が始まった。太陽はカンカン照り。遮るものは何もない。城壁の塔にコウノトリが巣を構えている。ときどきフワッと宙を舞う。カタカタカタと嘴を鳴らす。カスティーリャ地方のいい風景だ。ここで『オルメドの騎士』ができる満足感が湧いてくる。ところが役者さんたち、太陽にさらされながら、すっぽり衣装をかぶり、手を抜くこともなく通し稽古を続けている。役者根性に感心。さすがクセックの連中だ。ボクが気になるのは入場者数。事務所へ行ってコンピューターを見たら500人。当日券がまだ出るだろうと事務局の話。前日の劇団よりすでに100人多い。よし、やった。


プレスから「ヨイチ、テレビの取材よ」といわれ簡単な打ち合わせのあと、カメラの前に立った。録画撮りだという。気が楽だ。と突然、カメラの後ろにいたプレスの携帯が鳴り、「ヨイチ、ラジオのインタビュー。生番組よ」と携帯を渡される。テレビの録画を中断してラジオのインタビュー。実は劇団がスペインに来るまで、1週間、ボクはモロッコのマラケシュにいて大道芸の調査をしていた。と、オルメドのプレスからメールが来て「マドリードに着いたら、〇日〇時、ラジオのインタビューを受けて欲しい」と言ってきた。「マドリードではいろんな仕事があるので、その時間に携帯に出られるかどうかわからない。オルメドならラジオのインタビューを受ける」と答えておいたので、断るわけにはいかない。またプレスから、新聞社が電話取材をしたいと言っているが、とメールが来た。電話ではなくメールで質問を送ってくれたら、翌日には返信するからと答えた。2社からメールが来たので、モロッコのホテルから丁寧にメールで返信した。実はこの質問は大いに助かった。というのは、7月22日、公演の翌日、公開シンポジウムがあって、ボクは15分間、自分たちの『オルメドの騎士』について話さないといけない。オルメドの人たちが何をクセックACTに期待しているのか分かったからだ。その原稿になったのでありがたかった。


午後20:00。友人の劇作家ホセ・ラモン・フェルナデスから携帯に電話がかかってきた。いま劇場前のテラスで、奥さんと劇評家のイレーヌとその旦那さん4人がいるが、出てこられるかという。挨拶に出向く。30分ほどおしゃべりをして楽屋に戻った。こうして友人たちがマドリードからオルメドまで見に来てくれる。ありがたいことだ。

22:00、開場。裸舞台の野外劇場。名古屋より舞台が大きく感じる。しかし、役者さんたち、舞台をいっぱい使って見事に演じきった。唯一、計算外だったのが風だった。イネスが巻物を「こんな気持ちの悪い手紙、誰が読むものですか」とポンと放り投げると、風に乗ってあれよあれよと舞い上がり、舞台を支える鉄骨に引っかかってしまった。高さは7メートルはある。火田詮子さんがセリフを言いながら必死に引っぱったが落ちてこない。セリフと関係ないところで巻物が風に揺れるものだから、お客さんが演出の一つだと誤解すると困るなと思っていると、しばらくすると破れて落ちてきた。もう一つ、巻物を投げ上げると同時に、吊り籠から大量の手紙が舞い落ちる装置を作ったのだが、これも風に乗って舞台の外まで飛び散っていった。いやはや、野外舞台は怖い。通し稽古で照明が使えなかったが、仕込みがしっかりしていたので、公演時の照明は狂いもなくドンピシャリ。見事だった。


芝居が終わると、スタンディングオベーション、拍手は鳴りやまない。バラシを始めなければいけないが、観客は小屋の中で余韻を楽しんでいる。帰り際に風で飛び散った手紙を嬉しそうに拾っていく人たちを見ていると、寺院の法要で撒いた散華を拾っていく参拝者に見えてきた。今年は日本スペイン友好400周年。いい記念品として持っていってくれたのだろう。ようやく30分ほどで場外に出てくれたが、中庭でおしゃべりが続く。ボクは知っている人たちに挨拶。次々と握手。芝居を成し遂げた満足感。役者でも演出家でも、照明、音響、舞台監督といったスタッフでもない。それでも満足感に体中が満たされていく。至福のひとときだ。


01:00にバラシが終わり、演劇祭事務局に挨拶をしてホテルへ。遅い夕食。テーブルワインを上等のワインに変えて乾杯。皆さんお疲れさま。このあと06:30に帰国第1陣のバスが出る。ボクはしばし小休止。しかし、寝付かれないものだ。ウトウトとして6時半、ロビーに下りてバスを見送った。そのあと、爆睡。12:00近くに起きた。今日は17:30からシンポジウム。原稿を一通り読んで、オルメドの町へ。新聞を買ったが劇評は出ていない。どんな反応なのか分からないまま、シンポジウムの会場に赴いた。

バリャドリー大学主催だから、演劇学を勉強している学生が10人ぐらいかなと思っていたら、とんでもない。結構な年輩の方まで含めて70人ほどが詰めかけてきた。これには驚いた。スペインでは演劇が文化なのだ。娯楽ではない。ボクの横には2009年にコルサリオ劇団で『オルメドの騎士』を演出したヘスス・ペニャ、昨年シークエンス・トレス劇団を率いてオルメド古典演劇祭で『オルメドの騎士』を上演した演出家マリアノ・デ・パコが座った。それぞれが自分の上演した『オルメドの騎士』の上演意図を語ったが、一方的な話だから3人の話がかみ合うわけがない。いったん休憩を取った後、フロアーから質問を受け付けたが、ボクに質問が集中したのは仕方がないことだろう。「愛の囁きといいながら、セリフの内容と声の質が違うのはなぜか。特に汚いドラ声はどういう意味を持つのか」「コロスから役者が出てきてまたコロスに戻るのはなぜか」「ブランコを使う意図は何か」まだあったような気がするが、無事1時間半のシンポジウムを終えることができた。

さて、来年はどうするか。この秋から冬にかけて『現代スペイン演劇選集・全3巻』(カモミール社)を出す予定。現代物ならこの選集のなかから、スペインに古典物を持っていくならセルバンテスかな。こんな話し合いをしている。

#スペイン公演

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