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ヌマンシア




作 / セルバンテス

訳・脚色 / 田尻陽一

構成・演出 / 神宮寺 啓

愛知県芸術劇場小ホール / 名古屋

響のホール / 福井

関西外国語大学 谷本記念講堂 / 大阪

テアトロ・ムニシパル / アルマグロ スペイン

アルメリーア スペイン

ムルシア スペイン

わたしはヌマンシアのあちこちを彷徨いました。

しかし、ひとりとしてヌマンシア人を見つけることができませんでした。

生存者が見つかれば、なぜあなた方は錯乱し、死への道を狂ったように突き進んでいったのか、

聞きただすことができたのに。

作品について

 ヌマンシアはソリアから北東に7Kmほど行ったところにある廃墟だ。荒涼とした小高い丘に建物の土台だけがうねるように続く。住居跡を歩いていると、ローマ軍に包囲されたヌマンシア人の雄叫び、絶望、悲鳴が聞こえてきそうだ。

 ローマはヌマンシアを紀元前143年から134年にかけて、何度も征服しようとしたが、成功しなかった。カルタゴを壊滅(紀元前146年)させたスキピオ将軍が紀元前134年、8ヶ月にわたる包囲網を引き、無血開城を迫った。しかしヌマンシア人たちは、この芝居にあるとおり、飢えに苛まれ、自分たちの町を焼き払い、自決して無人の町を明け渡した。

 セルバンテスはこの作品をマドリードの演劇界で活躍し始めた30歳代に書いている。若書きゆえに文体はこなれておらず、気負いが目立ち、正直言って翻訳するのに手こずった。しかし、「ドン・キホーテ」48章において、セルバンテスは模範とすべき芝居の一つにこの「ヌマンシア」をあげている。これほど長くて固いセリフを、当時の観客が面白がって観たとは到底思えないが、過酷な運命により、死を選ぶしかない究極の人間存在をテーマにした悲劇としてみると、なかなか面白い。

 1937年、フランコ軍に包囲されたマドリードでこの作品は上演された。「フランコへの服従か、それとも自由か」という政治的なメッセージを舞台から送ったのだろうが、劇団クセックACTの台本作者としては、「愛する人のために君は死ねるか?」などという単純な「愛国心」を鼓舞するつもりはさらさらない。「愛する人と死ななければならない」悲劇を、どうして人間はいまだに繰り返すのか、地球的規模で危機に瀕している我々の悲劇として考えて欲しいと思う。

 なお、この作品は「アルマグロ国際古典演劇祭」からの招待作品である。劇団としては三度目の招待だ。

翻訳・脚色 田尻陽一

あらすじ

一人の中年サラリーマンがスペインのヌマンシアという町を訪れる。

男がそこで見たものは、ローマ軍の兵糧攻めを受けて、極端な飢餓と絶望の結果、ヌマンシアの市民が選んだ道は自ら死ぬことによってローマの支配を拒んだ壮絶な戦いの歴史だった。

サラリーマンは思った。この壮挙は未来のスペインに栄光をもたらすことになる、人々の勇気を示すものだと…。

そのほか

春の香り漂う季節、皆様は如何お過ごしでいらっしゃいますか。 昨年は『アッシリア皇帝と建築家』で名古屋、福井、大阪。 そして『ドン・ペルリンプリンの恋』でスペイン公演(三都市)を敢行し、お陰様で国内外で驚くほどの評価をいただきました。

昨年のスペイン・マドリッド公演終了後に、アルマグロ国際古典演劇祭委員長の衝撃的な一言「君たちの『ヌマンシア』が見たい。」この言葉(当然、スペイン語)で、今年の演目と第30回アルマグロ公演招聘が決定したのです。

作品は勿論『ヌマンシア』。作者は『ドン・キホーテ』でお馴染みのセルバンテス。そのセルバンテスに心酔する神宮寺啓(代表・演出家)だけに、このスペイン公演の喜びはひとしおです。

紀元前2世紀ごろ、ローマ軍とヌマンシア軍の戦いが繰り広げられた結果、敗れたヌマンシアは全ての人民が自決し、消滅するという悲劇を生んだのです。この史実を基にセルバンテスは1585年(38歳)に作品を書き上げています。

ところが才気煥発のセルバンテスが書いた『ヌマンシア』を、神宮寺 啓が構成・演出すると、驚く無かれ!!40数人の登場人物がたった10人。しかも中年サラリーマンが、のこのこと今は無きヌマンシアの地にやってくるというお話になってしまうのです。この暴挙?には、名うてのセルバンテスも、墓場から「もう~許せな~い」とクレームを付けるかも知れません。しかし、これぞ神宮寺ワールドなのです・・・まさに、こちらも才気煥発です。その神宮寺をサポートして翻訳と脚色を担当するのが田尻 陽一です。

今年も具体的、且つ抽象的というクセック独自のオリジナリティある演劇をお楽しみいただけると思います。

キャストは、昨年に引き続きゲスト出演の永野昌也さんがローマ軍の隊長を、そして火田詮子さんが祈祷師などを兼ねる役として参加してくれます。勿論、ヌマンシアの民となる元気印の劇団員は大熱演、そのエネルギッシュなほとばしりを皆さんに見ていただこうと思います。

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