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劇団クセックACT 欲望を活写



日本の劇団がスペイン文学の最高峰の1つ『ラ・セレスティーナ』を市立劇場で上演

舞台は、実にシンボリックな装置により、とある精神病院で繰り広げられる

(マルタ・モラ記者)

一条の光も差し込まない朽ち果てた木の扉を冷たい風が吹き抜ける。そこはまさに、むらむらと燃え立つ欲望、エゴイズムの固まり、破滅に向かう願望に突き動かされた登場人物の心の中そのものだ。息がつまり、陰鬱で薄暗い。悪魔が再び戸をたたき、邪淫の焔をかきたてる。快楽こそが唯一の宗教なのだ。

机の周りを重苦しい狂気が漂う。カリストは理性を失い、恋の病によって死にかかっている。カリストを導くのは精神病院の仲間たちの言葉だ。彼らはコロスとなり、そのなかから、語り手をはじめ様々な登場人物が生まれてくる。

第31回国際古典演劇祭の呼び物の一つ劇団クセックACTの『ラ・セレスティーナ』は、色彩によって情熱と死をシンボリックに表現し、音楽によってこの作品のもつユーモラス的な要素を舞台で見せてくれた。かれらの舞台は実に視覚的で、エネルギッシュな役者たちの演技により今回も観客を熱狂させ、幕が下りてからも総立ちとなって拍手が鳴り止まなかった。

シンボリックな舞台

クセックの舞台はシンボルにあふれている。まず、衣装は赤か黒か、虫食いだらけの破れた扉に囲まれた舞台装置のなかで劇が進行するにつれ、どちらかを選択することになる。そして、舞台の最後に出てくる額縁は、生命の要素として実に暗示的である。

軽快でダイナミックな舞台は、観客に息をつかせる暇も与えない。舞台に快楽主義者で、吝嗇で、貪欲で、言葉巧みに人を操り、悪魔のように頭のよい人物が登場する。彼女は老いぼれており、車椅子に座っているにもかかわらず、セックスが楽しいものであることを保証し、セックスを楽しむことを人に勧める。実は、この車椅子こそが彼女に更なる力を与えているのだ。火田詮子によって演じられた老売春婦セレスティ-ナはプルトンと手を結び、現世で悪魔の隠す仮面をつけている魔法使いなのだ。

恋の暗黒部を見せるためには、甘く切なく残酷な言葉が涙と血を誘う。しかし、こういったことを知らないまま、人は生きていけるのだろうか。

『ラ・セレスティーナ』の劇的構造は悲劇である。抑えきれない情熱としての愛がこの作品を進行させていく。

カリストはメリベアに恋焦がれ、メリベアは魔女セレスティーナの呪文のせいでカリストに恋焦がれる。これは禁じられた不道徳な恋であり、結末は死を迎えるしかない。作品の本質を1時間半に凝縮した劇団クセックACTの舞台で、死から免れたのは、召使の一人に恋をしたエリシアだけであった。


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