追悼 服部公
がんはやっかいな病気だ。一度かかるとめったなことでは完全治癒とはならない。
通常、手術後5年を経過すると治ったと思うが、それはあくまでみなし治癒であって、実はたいてい再発という時限爆弾をかかえている。
僕らの劇団仲間、役者の服部公が2022年3月22日にそのがんで亡くなった。
享年73歳。まだいさささか若い。1年程前から抗がん剤治療で身体がだるい、
平衡感覚が麻痺して自転車に乗れないとか、下痢がひどく毎日おしめ生活、体重も30kg後半といった有様だったとか。
でも会うと必ず「大丈夫だよ」と言い、あの公さんらしい笑みを含んだ顔で返してきた。
あの表情は今だに僕の脳裏から離れない。
いい顔でした。自分ではどうにもならないもどかしさや、そのやるせなさは、心痛むほどわかった。
2019年5月13日、「タイトルをつけそこなった嘘」終演後、火田詮子さんがクモ膜下出血でこの世を去った。
その日からなぜか不思議なことに、僕の周辺の環境が変化し、動き始めた。
2020年5月に向けての「ドン・ファン」公演は、コロナパンデミックの影響を受け中止・延期となった。
その年の8月、音楽家であり作家の水城雄さん(「エロイヒムの声」の脚本家)ががんで死去。
そして2021年6月20日、10数年来の僕の友人でスペイン人ホセ・ルイスもがんで亡くなった。日本とスペインとを越境する演劇をめざしている僕にとっては、とても心強いコメンテーターであった。2人とも僕らの劇団の良き理解者であり、逞しい応援団であった。
この年になると自分の周囲の知人・友人にも死ぬ人が沢山出ているし、これからもますますそうなるであろう。
そんななかで、この4人の友人たちは少なくとも自分のやりたいことを発見し、それを成就させた。
詮子さんと服部公は演劇に役者として、水城雄は音楽と小説に、そしてホセ・ルイスは日本でもライブ演奏など活動の場を広げ、それぞれ個々の磁場を作り上げた。
彼らはがんに勝てなかったが、がんに敗けない生き方をしてきたことは確かだと思っている。
合掌
劇団クセックACT代表・演出家 神宮寺 啓